私たちは、この非常に複雑な概念を一言で表すとすると「自分の手で夢を叶える力」と言えると考えています。実行機能は人間の認知/行動機能のうち、目標設定、道筋設定、計画実行、そのために必要な感情コントロールや時間管理などに関わるもので、「脳の管制官」とも言われています。実行機能の高い人は、人生の目標を見出し、自ら努力を重ねて夢を叶える可能性が高いのですが、発達障害や学習障害のある人はこの部分にも課題を抱えている人が多いと言われています。

多くの人は日常生活や学校生活で勝手に身につけて行くものではあるのですが、JEFCAでは、この「実行機能」を高めるためにコーチングの手法を用いることで、自分を知り、自分の好きや得意を活かし、それを生きる力に変えていける子供たちを増やしたいと考えています。

実行機能の12の要素

1.反応の抑制
2.ワーキングメモリ
3.感情のコントロール
4.課題の開始
5.注意の持続
6.計画と優先順位付け
7.整理と体系化
8.時間の管理
9.認知の柔軟性
10.メタ認知
11.目標への持続性
12.ストレス耐性

実行機能をどのような脳の機能の総体と考えるかには、諸説あります。最近では、注意力や記憶力といったより基礎的な処理機能と、感情のコントロールや行動の計画と進捗管理などのより複雑な処理が、複合的、階層的に関し合って、実行機能を可能にしていると考えられています。

実行機能の中でも、ワーキングメモリ、柔軟性、反応の抑制は、他の多くの機能と関わり、その基礎となる、中核的な機能と考えられています。

ここでは、ペグ・ドーソン(心理学者)とリチャード・グエア(神経心理学者)という実行機能コーチングの開発者の著書から、12の要素を紹介します。

1.反応の抑制

自動的な反応を抑える能力。同時に2つのことを行うこと(並行処理)を可能にするワーキングメモリや、自分の置かれている状況をふかんして観察することを可能とするメタ認知の能力と組み合わされて、状況に応じて、不適切な振る舞いを抑えることができます。逆に、反応抑制により衝動を抑えることができると、その後どのように振舞うことが適切かを考える余裕が生まれます。

例えば、目の前にケーキがあったときに、ふと気づいたら間食をしてしまったというときは、反応抑制が働いていないといえます。ワーキングメモリによって、今していることと、そこに食べ物があるということの両方に意識を向けることができ、かつ、メタ認知によって、時間や空腹感など、その時の状況に気づくことができれば、反応抑制を発揮して、ふいに食べ物に手を伸ばすことを止めるのはより容易になります。一旦はと気づけば、次にどのように振舞うかは、感情のコントロール、優先順位付け、柔軟性(ケーキから意識を切り替える)、目標への持続性が関係してきます。

2.ワーキングメモリ

先述の通り、ワーキングメモリは並行処理を可能にします。並行処理の基礎となるワーキングメモリの機能は、作業を進めつつ、もともと持っている情報や、新たに得られた情報を、一時的に保持することです。

読書はワーキングメモリを必要とします。文字を言葉や文として理解するためには、入ってきた情報をいったん受け止めておく必要があります。さらに、登場人物の様子や場面は、映像として保持されることになります。ただ保持しているだけでは理解することはできないので、これらと同時に、読書に集中するという持続的注意を発揮させたり、次々に入ってくる情報に対して、単語から意味を理解し、ストーリーを脳の中で思い描くという処理を行っているわけです。このような言語的・音声的な情報の保持、視覚的情報の保持、知覚を働かせ、情報から意味を理解するための処理が同時に行われる場、そのための作動スペースがワーキングメモリです。

3.感情のコントロール

目標の達成、課題の遂行、行動のコントロールや方向付けのために、感情をコントロールする能力です。感情をコントロールするためには、まずは感情に気づく必要があるので、メタ認知が基礎にあります。また、注意や考え方を柔軟に切り替えることができないと、感情的に混乱しがちなため、感情のコントロールためには柔軟性も重要です。感情のコントロールができるようになると、課題の開始、持続的注意、計画と優先順位付け、整理と体系化、時間管理、目標への持続性など、様々な他の実行機能や行動に影響を与えます。

感情のコントロールの強い人は、緊急事態でも落ち着いて、冷静に対応することができます。大人であれ、子どもであれ、気が動転することは少ないはずです。

4.課題の開始

先延ばしせずに、時間通りに課題を開始する力です。状況が冷静にきちんと把握されていないときには、物事は先延ばしされがちです。つまり、感情のコントロールや計画と優先順位付け、整理と体系化、メタ認知、目標への持続が課題の開始には関わっています。また、時間感覚という点でも、時間の管理やメタ認知が関わっています。

日常生活で言うと、食器洗いなんかが結構先延ばしされがちでしょうか。今やればいいのになかなかやらないですね。そうなると、反応の抑制も関連しているかもしれません。なぜなら、「だるいな」、「めんどうだな」という思考を抑制することができず、それに行動がコントロールされているかランです。ワーキングメモリやメタ認知がしっかりしていれば、自然と、今洗っておいた方が後で楽だなと気づけます。感情のコントロールが働いていれば、「だるいな」、「めんどうだな」と思っても、「そんなこと言っていないで」と、自分を鼓舞することができます。計画と優先順位付け、目標への持続性ができていれば、「だいるな」、「めんどうだな」と思う間もなく、「よし次は食器洗いだ」となるかもしれませんね。メタ認知や時間の管理がしっかりしていると、どれくらい休んでいいのかがすぐにわかり、時間の管理が効率的に行えるでしょう。

5.注意の持続

人間の注意力には4つの種類があります。1つは選択的注意で、必要な情報にだけ注意を向けること、2つ目は転換性注意で、1つのものから次のものへ、注意の対象を移すこと、3つ目は分配性注意で、複数のものに同時に注意を向けること、そして4つ目が持続的注意で、1つのことに注意を集中し続けることです。実際は実行機能と注意機能を厳密に分けることはできませんが、本稿では、選択的注意は反応抑制やメタ認知、持続的注意と重なると考えます。転換性注意は柔軟性、分配性注意はワーキングメモリに含めて考えていると理解するといいでしょうか。そして、持続的注意を、気が散ったり、疲れたり、退屈したりしても、ある状況や課題に注意を向け続ける能力と定義しています。

宿題や勉強を考えるとわかりやすいと思います。まずは課題の開始が関わってきます。開始できたとしても、次に気が散っていきます。反応の抑制、メタ認知、ワーキングメモリが機能しなければ、すぐに、気がそれた対象に意識が向いてしまうでしょう。このときに同時に機能しているのが持続的注意です。なので、宿題や勉強が続けられないというときには、始めることなのか、反応しないことなのか、自分の状況をふかんすることなのか、それとも注意を持続させることなのかと、どこに問題があって、続けられなくなっているのかを考える必要があるかもしれません。

6.計画と優先順位付け

計画と優先順位付けもより複雑な、応用レベルの機能と言えます。何が重要で何が重要でないかを判断し、目標の達成や課題の完了に向けた手順と方略を組み立てることができる能力です。優先順位付けには、メタ認知で自分の状況を理解し、さらに、ワーキングメモリで複数の選択肢を並べて検討することが必要です。意思決定や計画の組み立てには整理と体系化も必要でしょう。さらに、計画の立案は、目標達成までの全体像を把握し(メタ認知)、その脅威に押しつぶされることなく(感情のコントロール)、部分部分への反応を一旦保留にして(反応の抑制)、あらゆる可能性を考えて柔軟に(柔軟性)、時間感覚をもって(時間の管理)行う必要があります。

7.整理と体系化

情報や物を整理して記録するためのシステムを作り、維持する能力と説明されます。このように、課題遂行に特化した側面もありますが、より一般的には、身の回りの整理整頓、脳内の記憶の整理整頓を行い、必要な時に必要な情報にアクセスできる、情報を紛失せずに保持する、必要な時に思い出せることだと思います。整理や体系化を効果的に行うためには、ワーキングメモリが不可欠です。さらに、様々な視点を柔軟に切り替えて、かつ、ふかんてきな視点でものごとを理解するためには、柔軟性やメタ認知が必要になります。

物忘れや忘れ物については、整理と体系化だけでは説明できない点があるかもしれません。一般的には、常にワーキングメモリや分配的注意が働いているので、何かを忘れそうになった時に特に意識することなくそれを思い出すことができるのだと思います。一方で、物忘れや忘れ物をしがちな人は、そのアラートが自動では発動しないようなので、スキルの部分で不足を補うと良いのではないかと思います。

8.時間の管理

自分にどれだけの時間があるのか、それをどのように配分すればよいのか、制限時間や期限内に収めるにはどうすればよいのかを見積もる能力です。時間感覚には、ワーキングメモリやメタ認知が大きく関わります。なぜなら、時間の感覚や、時間の管理を行うには、今の自分と、過去から未来への時間軸上の自分の両方(並行処理)をメタ認知する必要があるからです。たいていは見積もりが甘くて、ギリギリになってしまったり、ものすごく忙しくなっていまったりすると思います。さらに、スケジュールに沿って時間を守るためには、反応の抑制、ワーキングメモリ、感情のコントロール、課題の開始、持続的注意、計画と優先順位付け、整理と体系化、柔軟性、目標への持続性など、他の多くの機能を必要とします。

試験や資格取得に向けた勉強を考える場合、まずは、メタ認知やワーキングメモリで、現状の自分の能力を理解し(どのようにすれば知れるのかに気づくことも含む)、将来像とのギャップ、そのギャップを埋めるために必要な作業や時間を見積もります。それを、計画と優先順位付けや整理と体系化の能力で、計画に落とし込んでいきます。そして、課題の開始、反応の抑制や持続的注意、目標への持続性を使って、活動を進めつつ、メタ認知とワーキングメモリで、進捗の管理と計画とのずれの確認を行います。さらに柔軟性や計画と優先順位付けの能力を発揮して、必要に応じて計画を修正します。

9.認知の柔軟性

障壁、挫折、失敗、未知の情報に直面したときに、柔軟に考え方や戦略を変える能力です。柔軟性が低い人は、いわゆる完璧主義というような、全か無かの思考(例:100点取れなければ失敗、受けた意味がない)を持ちがちです。原因はわかっていませんが、知覚や感覚の特殊性が認知的な柔軟性の低さの元にあるのではないかという意見もある。つまり、物事の違いや輪郭がはっきり見えてしまうので、逆に、グレーな部分や境界があいまいな部分が見えにくくなっているのではないかということです。因果関係はわかりませんが、ワーキングメモリの低さやメタ認知の低さが同時に生じることがあります。それによって、全体像や自他の違いをふかんして観察するのが難しいために、一層、柔軟性を発揮するのが困難になります。

柔軟性を発揮させるためには、差の可視化やルールの明確化が有効です。目標達成に向けた困難に対しては、予め、ワーキングメモリやメタ認知を発揮させて、考えうる困難を洗い出しておきましょう。さらに、いつ、どのようにルールを切り替えるのかを決めておき、可能であればそれを視覚的に示せるといいでしょう。例えば、疲労度を10点満点で点数化し、帰宅後疲労度が8点以上だったら、勉強は控えめに。7点以下だったら1時間勉強といった感じです。

10.メタ認知

メタ認知は近年とても注目されている脳の機能です。一歩下がって、状況の中で自分をふかんする能力であり、自分がいつ、どのように振舞い、何を考え、感じているのかを観察する能力です。自己評価をしたり、自分の思いを吟味する際にも使います。メタ認知はこれまでも述べてきたように、多くの他の実行機能の基礎となっています。

普段の生活の中でメタ認知を活用しているのは、その時々に応じて、自分の感覚や思いを吟味しているときではないかと思います。「今日は疲れているかな?」、「今何をしたいのかな?」、「今日は何が食べたいかな?」などと、自分自身に問いかけ、その答えを探索しているとき、メタ認知が発揮されています。活動の振り返りを習慣化することでメタ認知を鍛えることができますし、最近ではマインドフルネス・トレーニングが、メタ認知を高める効果的な手法として注目されています。

11.目標への持続性

目標を持ち、その目標を達成するまで粘り強く行動を続け、他に魅力的なものがあっても、それに気を取られて目標達成を後回しにしない能力です。目標と現在の自分の位置の関係を理解するためにはワーキングメモリとメタ認知の能力が必要です。この距離感が理解できないと、目標がはるか遠くのものに感じられてしまったり、現実感のある目標が立てられなかったりします。目標への持続性が難しくなる別のパターンとしては、セルフ・コントロールの問題があります。セルフ・コントロールとは、短期的な報酬に惑わされず、長期的な報酬に向けた行動をとることです。セルフ・コントロールが難しくなる背景には、短期的な報酬の魅力を過大評価し、長期的な報酬の魅力を過小評価する特徴がみられます。ここにはいくつかの実行機能が関連している可能性があります。まずは、ワーキングメモリ、メタ認知、時間の管理です。今の状態と、時間経過、将来の自分の満足感を適切に評価できないために、短期的な報酬の方に衝動的に飛びついてしまうということがあるのかもしれません。衝動性ということで、反応の抑制、注意の持続、感情のコントロールも関連する可能性があります。シンプルにただ待つだけでたくさんの報酬がもらえるという課題であれば、以上ですが、現実の生活では、計画や優先順位付け、整理と体系化が関連してきます。目標達成までの道筋が整理されていなければ、容易に、短絡的な快楽の方に引かれてしまうでしょう。

より具体的な例で説明すると、人はダイエットをしているときに、ついつい、食べない方がいいものを食べてしまうということがあると思います。ダイエットに伴うメリット(体系の改善、運動能力向上)が、長期的な報酬です。それに対して、高カロリー食を食べてしまったときの満足感が短期的な報酬となります。目標への持続性というのは、高カロリー食は食べずにダイエットするという目標を立てたら、それを維持し、安易に短期的な快楽に流されないということです。まず、メタ認知、ワーキングメモリ、時間の管理が適切に働くことで、人は、短期的な報酬と長期的な報酬とのどちらを選ぶかの意思決定ができます。意思決定をしたのちは、高カロリー食に向く行動を抑制する反応の抑制、目標に向けた道筋に注意を向ける持続的注意が働くことになります。さらに、計画と優先順位付けが明確になっていると、運動、食事制限、体重測定など、目標に向けて取るべき行動がはっきりするので、短期的な報酬に流されにくくなります。計画を立てる上で、整理と体系化がうまく機能すると、より合理的、効果的で、生活を包括する体系的な計画を立てることができます。このように、実行機能を活用しながら、うまくセルフ・コントロールを発揮することが、目標への持続性の能力です。

12.ストレス耐性

不確実性、変化、成果への要求に対処し、 ストレスの多い状況を生き抜く能力です。ストレス耐性の高い人は、変化の多い予測 不可能なライフスタイルを好みます。逆に、ストレス耐性の低い人は、次に何が起こるかを知りたがり、できれば慣れていて、何度も練習したことがある状況を好みます。

ストレス耐性を含め、実行機能の高低はその人の特徴を表しているだけで、高いに越したことはありませんが、高くなければならないというわけではありません。ストレス耐性が低ければ、できるだけ変化の多い状況は避け、準備に十分時間がかけられるようにするといいでしょう。余裕があるときには、あえて準備をせずに挑戦してみることで、ストレス耐性を高めるための練習になります。

以上、12個の要素を概観しました。各要素の階層性(いくつかはより複合的で、いくつかはより基礎的)を理解することができたのではないでしょうか。また、それぞれの要素が複合的に実行機能を構成しているということも分かったのではないかと思います。